コーナー監修:帝京大学医学部皮膚科学講座 主任教授 多田弥生先生
病名:尋常性乾癬
症状:全身の皮膚症状
病歴:20年
年齢:70代
Aさんに乾癬が発症したのは、今から約20年ほど前。まだまだ働き盛りの50代前半の頃でした。「肘にボツボツができて、何かなぁと思っているうちにどんどん広がってね。私の場合、粉(鱗屑)がひどくて、洗濯しても洗い物についちゃうので洗濯物を分けたりしてました。このあたりは町営の温泉施設も多いのですが家族で行っても私だけ入らなかったり、温泉に行っても部屋風呂入ったりしてましたね」と当時の苦労を振り返るAさん。40歳の時に心筋梗塞を患い、以後何度か手術や入院をしていた群馬医大の循環器から皮膚科を紹介され、本格的な乾癬治療がはじまります。
「乾癬の治療のことはなにもわからなかった」というAさん。病院から提案された4週間という入院期間に「そんなに長く!?」と当初びっくりしたと言いますが、時間をかけてしっかり光線をあて、塗り薬による治療を行なったことで症状は大きく改善しました。「心臓の悪い私のため、局所治療を徹底して行なってくれたのでしょう。薬の塗りにくい背中なども入院中なら看護師が塗ってくれるので、時間的余裕のある患者さんは入院治療という選択肢も考えてみてもよいと思います」とAさん。
その後、乾癬外来で安田先生に診てもらうようになったAさん。体調や季節の変化で、断続的に肘や下肢にポツポツ皮疹が出る状況を鑑み、安田先生はもう一歩よいレベルへ引き上げたいと従来の療法に加え、飲み薬での治療を提案します。「心臓の状態も落ち着き、乾癬も比較的よい状態をキープできているAさんなので、局所療法から全身療法へと治療範囲を広げ、乾癬の原因といわれる免疫バランスの異常を治療していこうと」と安田先生。その結果、頻繁に出ていた背中の皮疹も殆どなくなり粉(鱗屑)もうんと減った、とAさんは新しい治療へチャレンジした成果に満足した表情をみせます。
マメなAさんは十数年に渡る乾癬の治療記録をメモとして残していました。「あとで振り返ると、季節や体調ごとの症状の波や薬の合う、合わないがよくみえるんですよ」それは備忘録としての個人的な記録でしたが、その詳細な内容を見た安田先生は「これはもうひとつのカルテですね。我々は通常1つ前の病院のデータくらいしか分からないけれど、もっと前の状態が知れるならありがたいこと。他の乾癬の患者さんもAさんのように自分の症状を常に意識し、ちょっとしたことでもなんでも言ってくれると助かります」と長年診ているAさんの知られざる几帳面さにびっくりの様子。今も2週に1度の光線治療と日々の塗り薬、飲み薬で安定した状態を保つAさんは、趣味のアマチュア無線をはじめ、安田先生との二人三脚で退職後の人生を大いにエンジョイなさっています。
Aさんに学ぶあなたの治療のヒント!
使っていた薬があまり効かなくなったり、一進一退の症状を繰り返すと不安になったり、治療をあきらめたくなりますが、治療選択肢が増えた今なら、次なる手立ては必ずあります。
安田先生からのワンポイントアドバイス
光線療法や塗り薬などの局所治療を地道に続けることでAさんのように症状の改善が期待できることもありますが、なかには、あまり効果が得られない患者さんもいらっしゃいます。その場合は、乾癬の原因のひとつである免疫バランスの異常を治療する全身治療(飲み薬など)に挑戦してみてもよいかもしれません。まずはおかかりの皮膚科医で、いまの治療に対する疑問や不安を伝え、いろいろ相談してみてください。
3つのポイントお医者さんと自分にあった治療法を相談するためのチェックシート